長引く咳
長引く咳

“風邪は治ったのに咳だけが続く”、”ひどくはないけど鼻水と咳が続く”、“咳のため仕事に集中できない”、”電車や職場で咳をすると周りの目が気になる”──多くの患者さんがこのような症状で来院されます。咳が続くと体力が奪われ、睡眠や日常生活の質(QOL)が低下します。長引く咳の原因には風邪ではないさまざまな疾患が潜んでおり、日本人の長引く咳の3大原因は咳喘息・副鼻腔気管支症候群・アトピー咳嗽で、長引く咳で受診する患者さんの1/3は原因が1つではなく複数であったと報告されています(Ishikura Y. et al. Respir Investig;62(3):442-448, 2024)。したがって、個々の患者さんに応じた詳しい検査と治療が必要になります。
咳は「異物」や「刺激物」を体外へ排出するための体の反応であり、気道や肺に炎症や障害がある際の防御システムとして働いています。気道が過敏になったり、咳の感受性が亢進した状態(刺激に敏感な状態)では、軽度の刺激でも咳が出やすくなります。
一般的に3週間以上続く場合は単純な風邪による咳である可能性が低いため詳しい検査が必要になります。また、咳は痰の有無により以下のようにも分類されます:
当院で行う、長引く咳の原因を調べるための検査を表にまとめます。
| 検査名 | どんな検査? | わかること・主な対象疾患 | 検査のポイント |
|---|---|---|---|
| 呼気NO検査 | 専用の機械に向かって、ゆっくり息を吐いていただきます。痛みもなく数分で終わります。 | 気道のアレルギー性炎症の程度がわかります。気管支喘息・咳喘息などで値が高くなる事が多く、診断や治療効果の評価に役立ちます。 | 息を一定の速さで吐くことで、正確な値が測定できます。小学生くらいのお子さんから実施可能です。 |
| モストグラフ (気道抵抗検査) |
マウスピースをくわえ、鼻をクリップでとめて、楽に呼吸するだけの検査です。 | 気道(空気の通り道)の抵抗=通りやすさを評価します。主に喘息・COPDなどで気道が狭くなっていないかを調べます。 | 息を強く吐く必要がないため、ご高齢の方や息を吹きづらい方、小児にも行いやすい検査です。 |
| スパイロメトリー (肺機能検査) |
「大きく吸って、思い切り一気に吐く」動作をしていただき、肺の容量や空気の出し入れの速さを測定します。 | 喘息・COPD・間質性肺炎などで、肺や気管支がどの程度障害されているかがわかります。 | 医療従事者の声掛けに合わせて頑張って頂く検査ですが、苦しくなった場合は途中で中止できます。 |
| 胸部レントゲン | 立った状態で胸の写真を撮る検査で、撮影自体は数秒で終わります。 | 肺炎・肺がん・結核・間質性肺炎・気胸など、見逃してはいけない病気がないか確認します。長引く咳の評価では、まず一度は受けておきたい基本的な検査です。 | 妊娠中・妊娠の可能性がある方は、必ず事前にご相談ください。 |
その他、患者さんの症状に応じてアレルギー採血やCT検査なども行います。
※CT検査は近隣の施設と連携して行います。
空気の通り道である気道は上気道と下気道の2つに分けることができ、上気道は鼻から喉、声帯まで、下気道は声帯から下の気管・気管支・肺(肺胞)を指します。ここでは分かりやすいように上気道と下気道の疾患に分けて述べていきます。
| 部位 | 原因疾患 |
|---|---|
| 上気道 | 後鼻漏 アレルギー性鼻炎 好酸球性副鼻腔炎 寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎) |
| 下気道 | 気管支喘息 咳喘息 アトピー咳嗽 感染後咳嗽 COPD 間質性肺炎 肺癌 |
| 上下気道共通 | 副鼻腔気管支症候群 |
| その他 | 逆流性食道炎(GERD) 咽喉頭逆流症(LPRD) 心因性/ストレス性咳嗽 降圧薬(ACE阻害薬)による咳 |

副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など鼻の疾患により生じた分泌物が喉の方へ流れることで咳の反射を誘発して咳が生じます。
症状
鼻水や痰などが絡んだ咳症状の他、喉の違和感もあります。
検査
アレルギーの採血や場合により副鼻腔CTを行います。
治療
原因に応じて抗菌薬、抗アレルギー薬、ステロイド点鼻薬などで治療します。
通年性(ダニなど)や季節性(花粉など)のアレルゲンにより鼻粘膜が炎症を起こす事で鼻汁・鼻水などの分泌物が喉の方へ流れることで咳の反射を誘発して咳が出ます。
症状
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、後鼻漏を介した咳。
検査
アレルギー採血など。
治療
抗アレルギー薬、ステロイド点鼻薬などで治療します。
アレルギーの細胞である好酸球による慢性の副鼻腔炎です。副鼻腔の中でも篩骨洞と言う部分に炎症が生じやすく、血中の好酸球が高い患者さんはこの疾患が疑われます。気管支喘息や解熱鎮痛剤の内服による喘息発作などの合併が認められます。鼻茸(鼻のポリープ)を伴いやすく通常難治性で、中等度以上の症状であれば国の難病に指定されています。疑われた場合、確定診断には耳鼻科での鼻生検が必要になります。
症状
強い鼻づまり、後鼻漏、嗅覚障害、咳。
検査
副鼻腔CT、アレルギー採血。
治療
ステロイドの点鼻や内服、生物学的製剤(デュピルマブ)、吸入ステロイドの経鼻呼出、内視鏡下鼻副鼻腔手術
急激な気温の変化により鼻の自律神経が乱れ、アレルギー様症状が出現。
症状
比較的透明な鼻水、鼻づまり、後鼻漏による咳。
検査
詳細な問診
治療
マスクなどによる寒暖差対策、ステロイド点鼻薬、漢方薬(小青竜湯)など。
病態
気道が過敏になり、咳のみが出る喘息の一種。
症状
夜間・早朝の乾いた咳、運動や冷気で悪化。
治療
吸入ステロイド薬(ICS)を中心に、気管支拡張薬を併用。
検査
呼気NO検査、肺機能検査、モストグラフ。
病態
慢性気道炎症により気道が狭窄、再発性の喘鳴・咳・呼吸困難を起こす。
症状
発作性の咳、息切れ、ヒューヒュー音。
治療
ICS+LABA(長時間作用型β刺激薬)、ロイコトリエン受容体拮抗薬。
検査
呼気NO検査、肺機能検査、モストグラフ、アレルギー採血
病態
アレルギー素因を持つ人に発症。気道に好酸球性炎症がある。
症状
慢性的な乾いた咳。喘鳴なし。
治療
抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬、トラニラストなど)。ICSも有効。
検査
アレルギー採血、呼気NO検査
病態
ウイルスや百日咳などの感染症により気道粘膜の過敏性が持続。
症状
風邪症状が改善後も2~8週間続く咳。
治療
気道過敏が強い場合は気管支拡張薬やICS。
病態
喫煙などにより気道が恒常的に炎症。
症状
慢性的な痰のある咳、運動時の息切れ。
治療
禁煙、吸入薬(LABA、LAMAなど)。
検査
肺機能検査、胸部レントゲン、CT。
病態
肺の間質(肺胞壁)に炎症や線維化が生じる疾患群。自己免疫疾患や薬剤、環境要因などが原因となることもあり、慢性咳嗽の原因としても重要。
症状
乾いた咳、労作時の息切れ、呼吸困難。咳はしばしば持続的で夜間にも生じる。
治療
原疾患の治療(例:膠原病)、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)、ステロイド・免疫抑制薬など。
検査
胸部CT、肺機能検査、KL-6などの血清マーカー。
病態
肺や気管支にできた腫瘍が気道を圧迫・刺激し咳を引き起こす。
症状
長期間続く咳、血痰、体重減少、胸痛など。
治療
外科的切除、放射線、化学療法など。
検査
胸部レントゲン、CT、喀痰細胞診、気管支鏡。
病態
副鼻腔炎と気管支炎が慢性的に持続し気道全体に炎症が及ぶ状態。後鼻漏が持続し、下気道にまで影響を及ぼす。
症状
慢性の痰を伴う咳、後鼻漏、繰り返す気道感染、鼻づまり。
治療
長期少量マクロライド療法、去痰薬、点鼻薬、副鼻腔治療の併用。
検査
副鼻腔CT、喀痰検査、胸部レントゲン
病態
胃酸の逆流により気道粘膜が刺激される。
症状
食後・就寝時の咳、喉のイガイガ、胸焼け。
治療
PPIやP-CAB、生活習慣改善(就寝前の食事制限など)
病態
自律神経の乱れや心理的ストレスにより咳が持続。
症状
会話や緊張時に悪化。夜間や睡眠中は咳が止まる。
治療
環境調整、心理的アプローチ。
病態
ACE阻害薬(エナラプリル、リシノプリルなど)はブラジキニンの分解を阻害することで、咳受容体の感受性を高めることがある。
症状
薬開始後数日~数週間で出現する持続性の乾いた咳。
治療
薬剤の中止またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)への変更で改善。
長引く咳には、咳喘息・副鼻腔気管支症候群・アトピー咳嗽など、風邪以外の原因が多く、複数の病気が重なることもあります。3週間以上続く咳は要注意です。当院では呼気NO検査や肺機能検査などを用いて原因を丁寧に評価し、患者さんに合わせた最適な治療を行います。咳でお困りの方はご相談ください。
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