睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群

これらはすべて睡眠時無呼吸症候群に関連する症状です。
下の図1は、埼玉医科大学睡眠呼吸センター在職中に1850名の睡眠時無呼吸症候群の患者さんが受診した時にどのような症状を自覚していたのかをアンケートで調べた結果です。

図1:睡眠センターを受診した患者さんが自覚していた症状とその割合
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に鼻~喉にかけて空気の通りが悪くなることで様々な症状が起きる病気です。肥満や加齢が主な原因と考えられていますが、顎の形なども日本人にとっては重要な原因となります。寝ている時に空気の通り道である上気道が塞がったり広がったりする状態が一晩中繰り返されることで睡眠が分断されて深い睡眠がとれず、日中に強い眠気や集中力の低下を引き起こします。
また無呼吸により体の中の酸素濃度が頻繁に低下するため心臓に大きな負担がかかり、高血圧や動脈硬化の進行、心房細動などの不整脈、心筋梗塞や脳梗塞、明け方の突然死などのリスクが高まります。睡眠不足によるストレス反応から血糖値やコレステロール値も上昇し生活習慣病の発症リスクも高まります。睡眠時無呼吸症候群はこれら合併症の管理も必要になるため、併存疾患のある方は内科での管理・治療が適していると言えます。
これまで報告されていた様々な論文をまとめた2019年の報告によると、日本には軽症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんが約2200万人いて、そのうち中等度以上の患者さんが900万人以上いると推定されています(図2)。
実際、外来をやっていても患者さんはすごく多いと感じています。1時間あたり20回(=3分に1回)以上、無呼吸のイベントが発生する患者さんでは、治療をしないと重大な疾患(心血管イベント)による死亡リスク(図3)や交通事故などのリスクが高くなるため早期の診断と適切な治療が重要です。

図2:世界の閉塞性睡眠時無呼吸の
患者さんの推定患者数
(Benjafield AV et al. Lancet
Respir Med ;7: 687-698, 2019)

図3: 無治療の睡眠時無呼吸症候群患者さんの生存率
閉塞性睡眠時無呼吸の原因を説明する1つのモデルとしてWellmanモデルと言うものがあります。大きく4つの原因があり、単独あるいは複数の要因が絡み合って発症していると考えられています。

Wellman Model
(Wellman A et al. J Appl Physiol 110:
1627–1637, 2011)
CPAPはどの要因が原因であっても治療効果があります。ただしCPAPがうまくできない人やCPAPだけで治療がうまくいかない場合は他の治療を選択したり組み合わせる事もあります。
ほとんどがこのタイプになりますので、一般的に睡眠時無呼吸症候群と言ったら閉塞性睡眠時無呼吸のことを言います。上気道が睡眠中に狭くなり空気の通り道がふさがることが原因です。肥満・あごの形・舌の大きさ・扁桃肥大などが関係します。一般的にいびきが大きい方や、呼吸が止まると指摘される方はこのタイプの可能性が高いです。
脳から呼吸を指令する働きが様々な要因で一時的に低下し、呼吸の動きそのものが止まったり弱くなったりするタイプです。心臓疾患や脳疾患、あるいは一部の薬剤などが関係することがあります。いびきは少ない場合もあり、心不全治療中の方などでみられます。
睡眠時無呼吸症候群の重症度は1時間あたりに「呼吸が止まる(無呼吸)」または「呼吸が浅くなる(低呼吸)」回数を調べ、AHI(Apnea–Hypopnea Index) として表します。AHIの値によって重症度が以下のように分かれます。40回/hr以上を最重症と表現することもあります。

睡眠時無呼吸症候群は「いびき」や「眠気」だけの病気ではなく、全身の臓器に負担をかける疾患です。夜間に何度も呼吸が止まることで、酸素不足や血圧変動が繰り返され、さまざまな病気の原因・悪化要因になります。
| 分類 | 合併症 | 説明 |
|---|---|---|
| 心血管系 | 高血圧 | 難治性高血圧の原因 |
| 心房細動などの不整脈 | 無呼吸と強く関連。アブレーション後に再発のリスク | |
| 心筋梗塞・狭心症 | 繰り返す低酸素、動脈硬化進行により、リスクが上昇 | |
| 脳血管系 | 脳梗塞・脳出血 | 夜間の低酸素と血圧変動で脳血管損傷のリスク上昇 |
| 代謝系 | 糖尿病 | インスリン抵抗性が悪化し血糖値が上がりやすくなる。 |
| メタボリックシンドローム | 脂質異常・高血圧・肥満が進行しやすい。 | |
| 消化器 | 逆流性食道炎(GERD) | 胸腔内圧の変動で胃酸が逆流しやすくなる。 |
| 泌尿器 | 夜間頻尿 | 無呼吸イベントにより利尿ホルモンが出てトイレが増える |
| 眼科 | 緑内障 | 夜間の酸素不足などで視神経が障害されやすい |
| 脳神経 | 認知症・記憶力低下 | 睡眠不足・質の悪化と低酸素が脳に悪影響 |
| 精神科 | うつ症状・意欲低下 | 熟睡できずストレスなどから気分が落ち込みやすくなる |
睡眠時無呼吸症候群の診断のために以下のような検査を段階的に行います。
鼻が詰まって口呼吸になると下あごが下がります。その結果、舌の根元が喉の奥に落ちやすくなり、最終的に気道が狭くなって空気の通りが悪くなりいびき無呼吸が起きます。
鼻づまりがあると睡眠障害を来す確率は1.8倍, いびき症となる確率は4.9倍になると言われており(Valero A, et al. J Allergy Clin Immunol 2007, Lofaso F, et al. Eur Respir J 2000)、鼻づまりは睡眠時無呼吸症候群の大きなリスク要因です。睡眠時無呼吸が疑われる患者さんの鼻腔通気度を調べる事は鼻疾患の治療の必要性や鼻づまりが原因でCPAPがうまくできない可能性を事前に知ることができ、睡眠時無呼吸症候群が疑われる患者さんにとって非常に有用な検査です。
自覚症状として鼻づまりがない方でも検査で鼻が詰まっている方が沢山いらっしゃること、鼻詰まりはCPAPの継続率に影響を与えるので、できるだけ皆さんに受けて頂いています(保険制度上の問題でCPAP導入後に保険診療で検査を受けることはできません)。1回限りの検査で、費用は3割負担で900円程度です。
自宅でできる簡単な検査で、無呼吸や低呼吸の数、いびき、酸素飽和度の低下、脈拍数、睡眠時の体位などを調べることができます。費用は3500円程度(3割負担)で、睡眠時無呼吸症候群が重症であればこれだけの検査で十分です。
ただし、簡易検査では無呼吸低呼吸の数が5回/時間未満でも睡眠時無呼吸症候群ではないと言えません(日本睡眠学会ステートメント)。その理由として、脳波を測定していないため正確な睡眠時間の測定や低呼吸の判定に必要なイベントが測定できないこと、中枢性無呼吸などの評価には向いていない事などがあります。
したがって、一般的に簡易検査の結果は精密検査よりも過小評価になるため、簡易検査の結果はREI=Respiratory Events Indexと言って、PSGのAHI=Apnea Hypopnea Indexとは区別されます。REIが40回/hrを超えると簡易検査のみでCPAP導入可能となります。
当院では簡易検査として、以下の2つの検査機器を採用しています。

(CHEST ホームページより)
※CHESTの簡易検査については院内での採用もあり、在庫があれば当日検査可能です。
(フィリップスHPより)
簡易検査でCPAPの導入基準に満たない場合、より精密な検査で睡眠時無呼吸症候群の程度を判定します。簡易検査との1番の違いは脳波を測定できるという点です。これにより睡眠脳波の時のみの無呼吸・低呼吸の回数をカウントする事ができ、さらに検査中の睡眠経過図を参考に酸素飽和度の低下、覚醒の頻度、睡眠段階の乱れなどを詳細に評価する事できます。
※精密検査には自宅で行う検査と1泊入院して行う検査の2種類があります。それぞれの特徴と違いは以下の通りです。
自宅で心電図・呼吸運動・酸素飽和度・気流・脳波など複数の項目を記録する検査です。費用は3割負担で13,500円程度です。
病院で1泊して、在宅PSGで装着する装置に加えて足の筋電図などを装着します。周期性四肢運動障害やREM睡眠行動異常症など睡眠時無呼吸症候群以外の睡眠障害の原因を調べる時にも有用です。診断のゴールドスタンダードですが、個室代もかかるため病院により検査の価格は変わりますが、一般的に3割負担で40,000円~50,000円かかります。
当院ではまず鼻腔通気度検査を行い、鼻づまりがないかを客観的に評価します。その上で簡易検査を行い、必要であれば在宅PSG検査を行います。検査の結果あるいはCPAP導入後に眠気が続くなどの症状があれば入院PSG検査やその他の睡眠検査ができる病院に御紹介致します。
当クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の原因やタイプ、重症度、生活習慣などを総合的に評価し、患者さん一人ひとりに合った治療をご提案しています。ご自宅で行える簡易検査から精密な睡眠検査まで対応し、生活改善のアドバイスからCPAP療法・歯科へのマウスピース作成依頼まで柔軟に対応いたします
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